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                                  〜トピックス〜 VOL.6 02.9.27(金)
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             地すべり抑止工法の現状と展望


 前号に関連して、九州産業大学工学部土木工学科の奥園誠之教授の記事(『ベース設計資
料』 建設工業調査会発行 2002/9/20掲載)を抜粋しながら、地すべり抑止工法について考え
てみます。

記事全文は、当研究会ホームページのメールマガジンバックナンバーフォーラムからご覧下さい。

1.地すべり抑止工の特徴

 地すべり対策には排土工(滑動土塊の軽減)、地下排水工(すべり面にかかる水圧の低減)
で代表される抑制工と杭やアンカー等ですべりを力学的に止める抑止工とがある。
 一般に抑制工の方が経済的であり一般的工法といえるが、近年工期、用地事情、環境問題
等から速攻性のある抑止工が採用されていることが多くなってきている。
(後略)

2.杭工

(1)杭工の長所
(割愛)

(2)杭工の問題点
(割愛)

3.グランドアンカー工


(1)アンカー工の長所
 建設分野でグランドアンカー工が使われ始めたのは50年ほど前と思われる。当時は構造物
を基盤に結びつける仮説的な役目として用いられることが多かった。近年は斜面安定、中でも
地すべり抑止工に用いられることが多く、今やアンカー全盛時代ともいえる。
 アンカーの長所は次のような項目が考えられる。
 1) 積極的に緊張力(プレストレス)を与えられるため、地すべり変形が起る前から高い抑
    止力が期待できる。
 2) 工法の特徴として、急傾斜斜面ほど引止め効果が得られるため、図−3の@Aに示す
    ような斜面では効果的である。
 3) 図−3Aのような場合でも全面にアンカーを打てば抑止効果が得られ、杭のような曲
    げモーメントを考える必要がなく、大口径高強度の杭よりも安価である。

(2)アンカー工の問題点
 しかしこれだけ普及したアンカー工も現場で問題が無いわけではない。現場では次のような
問題点が起っている。

1) アンカー打設角度
   図―4はある切土のり面に打設したアンカーのすべり前の状況を示したものである。アン
カーはのり面にもすべり面に対してもほぼ直角に打設されていた。図−5はその後の地すべり
(崩壊)によるアンカーの変形形状を示す。結局この変形した形状で変位は停止した。アンカー
の効果はすべり土塊をすべり面に押し付ける「締付け効果」と土塊を基盤につなぎ止める「引き
止め効果」があり、通常次式で表される。

  P=ΣTsinβtanΦ+ΣTcosβ・・(T)

   P:アンカーによる抑止力
   T:設計アンカー力(引抜き耐力)
   Φ:すべり面の内部摩擦角
   β:すべり面とアンカーとのなす角

 (T)式右辺の第1項が締付け効果であり第2項が引き止め効果である。図−4のようなβ=90°
の場合、第2項は0となり引き止め効果が発揮できないことになる。Pが最大値を示すのは=Φと
なるときである。したがって図−5のように変形してβがΦに少しでも近づいた時点で変形が停止
したものと考えられる。
 この他アンカーは平面方向の打設にも問題を持っている。すなわち、アンカーは斜面に直角
(平面的に)方向に打設することが多く、スキュー(斜め)からの地すべりが来た場合、アンカーに
回転がかかり効果が低下する可能性がある。いずれにしてもアンカーは方向性を持っているため、
打設角度はすべりの方向を十分確認してから決定する必要がある。




2) 耐久性 
  最近現場において完成後のアンカーに次のような現象が起っている。
  1)完成して10年もたたないのにアンカーヘッド(頭部)が錆びて落下する。
  2)テンドン(中間部の鋼線・鋼棒)が錆びて切断する。鋼棒が切断すると前面に飛び出
    すので危険である。
  3)定着部(一番奥の基盤と接着するアンカー体)の耐力が設計通りに保たれていない
   ため、リフトオフ(引張り)試験をやってみると簡単に引抜ける。

 以上のうち1)、2)は、最近は二重防蝕等の進歩により改良されて来ているが、以前のものはその
まま放置されているのが現状である。
 3) については定着基盤のクリープによるものでもあるが、最初から定着不足、つまり、定着
層の確認不足・被圧地下水対策不足、孔壁の清掃不十分(スライムの残留)等の可能性もあり、
現場での品質管理のあり方が問われるものである。

4.まとめ
 本小論の前半は杭の打設位置、打設深度の問題、アンカーの打設角度の問題について述べた。
これらは地すべりの形態、特にすべり面の位置や形状を正確に把握することにつきると思われる。
そのためには、地盤調査の量と質の充実が不可欠であろう。
 後半はアンカーの品質に起因するものであり、施工中の品質管理体制の強化が必要である。
また完成後の維持管理体制の強化が望まれる。
 地すべり抑止工はすべりを停止させるのに最も速効性のある工法である。しかし決して安価な
工法ではない。それだけに設計どおりの製品が現場でできていない、いわゆる手抜き工事は許
しがたい心境である。リレーで言えばアンカーは最終走者なのだから。

 『無水掘工法 副題:ロックアンカー工、ロックボルト工における削孔システム』(『国土交通省-
NETIS』に詳細記載)で施工を行う事により、品質の向上、コスト縮減34%、工期短縮38%
実現し、一箇所でも多く土砂災害を未然に防ぎ、安心して暮らせるまちづくりを目指しましょう。

【編集室より】
 VOL.4から今号まで事例を踏まえながらアンカー工における現場品質管理(定着層の確認、
被圧地下水対策、孔壁の清掃(スライムの残留)等)の不十分さについて考えさせられてき
ましたが、読者の皆さんは何を感じられたでしょうか。
 設計どおりの製品が現場でできていないため、より最適な工法が求められています。
 その1つとして、当研究会の無水掘工法は、設置地盤の地質確認は100%であり、被圧
地下水に即対応するため、現場の品質管理がより完璧に近づきます。
 ここにあげられている失敗例と同じ失敗を繰り返さないためには、アンカー工の工法の長
所と短所を再確認して設計・施工していかなければならないのではないでしょうか。

 次号は、『〜現場情報〜現場作業員の死亡事故について考える』(仮称)を予定しております。