『無水掘工法』

(ロックアンカー工・ロックボルト工における削孔システム)

JOSシステム研究会

無水掘工法普及推進室

代表 永見 博希

山本 裕三

 

○表紙

これよりロックアンカー工・ロックボルト工における削孔システム「無水掘工法」について発表いたします。

 

○危険箇所(地図)

 わが国における土砂災害危険箇所は非常に多く分布しています。赤いところは危険箇所が50を超える市町村です。ご覧のように日本列島の半分以上が真っ赤になっており、

全国で18万箇所を超えています。しかしながら、その約7割が未だ対策されていません。その要因として、毎年大雨や台風などにより危険箇所が増える事および対策工事にかかるコストが高いという2点が挙げられます。そんな中、人の生命・財産を守るためにより確実でより安く、より安心出来る新工法が強く望まれています。 このような危険箇所の対策工事として

 ロックアンカー工

 ロックボルト工が挙げられます。 今日の現場では品質の確保、安全性の向上、施工性の向上、総合的コストの縮減などが求められ、研究開発した結果、

全く新しいロックアンカー工・ロックボルト工における削孔システム

無水掘工法が生まれました。

 

○無水掘工法とは

無水掘工法とは削孔水を使わず、

圧密削孔により孔壁の保持を行うことにより            

ノーケーシング、

超軽量電動削孔機での削孔可能とした工法です。

圧密削孔とは超高圧エアーによる削孔で

面圧

周速

トルクの相乗効果を理論的かつ実証的に確立した削孔システムです。

 

○グランドアンカー設計・施工基準、同解説

また、平成12年3月には10年ぶりに大改定された地盤工学会の「グランドアンカー設計・施工基準、同解説」の第7章 施工、削孔の項で『設計仕様・地盤条件・施工条件・施工規模などを考慮して削孔機械と削孔システムを選定し、アンカーの品質が十分に満足できるものとなるように管理を行いながら施工する。』と明記され、また『削孔中に排出されるスライムの状況や削孔速度などにより、アンカー体の設置地盤の位置や層厚を把握し、設置地盤としての妥当性確認(の参考とする。』と明記されているように、

現場施工時に11本の設置地盤の確認が義務付けられました。いわゆる元請責任が明確化されました。

その一翼を担う【無水掘工法】も現在390現場、140,000mの実績が示すように数多くの現場で採用されており、結果この新工法が十分評価されていると考えています。

 

○表(設置地盤の確認)

 では、比較表を用いながら無水掘工法と従来工法とを比較し、述べたいと思います。

 まず、品質の確保として設置地盤の確認についてですが、従来工法では難しかった設置地盤の確認を無水掘工法では1m毎パウダーコアを採取することによって可能としました。

 

○設置地盤・摩擦力

山を押える力はアンカーが抜けないように耐える力によるものです。

それは設置地盤における摩擦力によって得ています。つまり設置地盤はアンカーの命といえます。 この設置地盤の岩質が推定されたものと異なっていれば、期待される力を得る事は出来ません。すなわち設置地盤の確認は非常に大切な事であり、当然求められてきました。しかしながら、従来工法においては泥水掘のため地盤の判定が非常に困難です。

平成12年度日本で最初の会検指摘事項となった山梨県のアンカーも推定岩盤線による設計長のテンドンを工場加工で搬入使用した為に設計耐力不足となったものだと考えられます。

○削孔時設置地盤(定着層)確認柱状図

本工法は、無水掘でありこの写真の様に1m毎にパウダーコアを採取する事により、ドライな状態で岩判定が行えるため、より確実に設置地盤の確認作業が行えます。そして、現地土質の生のデータによりアンカー長を決定し、テンドンをその場で加工します。

本工法においては、報告書として写真入りの削孔時設置地盤(定着層)確認柱状図を提出いたします。

 

○表(被圧地下水の確認)

 次に、品質確保するために欠かせないのが地下水の問題です。

被圧地下水は定着部のグラウトを希釈させ品質低下をまねき、抜ける要因の1つになります。

 

     排水ボーリング

本工法では、地下水の有無・被圧の程度が分かるため、即対策が可能です。

主に、排水ボーリングによって被圧を下げてからセメントミルクの注入を行います。

 

     表(安全性の確保)

安全性向上においては、まず削孔水不使用による二次災害防止が挙げられます。

     従来工法削孔水注入

従来工法では、毎分180リットル程度の削孔水を地山に注入するため、すべり面等の地盤境界に水が大量に供給され、二次災害つまり自ら崩壊を導く事がありました。本工法においては、削孔水が不必要なためこの危険がなくなりました。

 

     表(作業員の安全確保)

2つ目はワンマン遠隔操作による作業員の安全作業です。

 

     ワンマン遠隔操作

削孔機の軽量化および電動化により、ワンマン遠隔操作を実現し、機械軽量化により、ロットの継ぎ足し等を1人で行う事が可能なため、合図ミス等による事故が無くなりました。また、削孔を遠隔操作にて行えるため、万が一崩壊等があった時でも作業者の安全は確保出来るようになりました。

 

     表(工期の短縮)

次の施工性の向上では、まず仮設の簡素化などにより32%の工期の短縮が計れています。

 

     表(機械重量)

機械重量は従来の1t〜2.5tに比べ250kgと大幅に軽量化されました。

 

     表(仮設足場幅)

そのおかげで、足場幅も従来の4.5m幅の足場に対して1.6mと小さくなり、空立米は約1/5となります。

 

     表(総合的コストの縮減)

次にコスト縮減について述べます。

まず社会的コストの低減として、無水掘工法の1.6m足場幅により交通規制をかけずに施工できるNSLノンストップレーン工法が挙げられます。

 

     NSLノンストップレーン工法比較表

この現場は平成13年度の山口河川国道事務所の国道2号勝谷防災工事で、

従来工法の4.5m足場では

片側通行規制をしなければならないのですが、

無水掘工法の1.6m足場では通行規制をかけずに施工できました。

 

     NSLノンストップレーン工法施工状況

これは実際の現場で施工中の写真です。

路肩内施工のために

車線規制無で施工できました。

 

     表(ライフサイクルコスト低減)

次にライフサイクルコスト低減として緑の斜面工法を挙げます。

緑の斜面工法とは、無水掘工法の1.6m幅と小さい足場のため立木を伐採せずにロックアンカー工・ロックボルト工を施工する工法です。

 

     緑の斜面工法写真

これは実際立木を残したままアンカー工を施工した現場です。

 

     緑の斜面工法施工状況

このように1.6m幅の足場のため立木を残したままで施工が可能です。

 

     表(工事コスト)

工事コスト低減として仮設足場が従来の1/5で施工できることが挙げられます。

 

     足場写真

従来工法の4.5m足場はジャングルジムのようにそびえ立っていますが

無水掘工法の1.6m足場は見えないくらいのものとなっていて、足場空立米の減少は一目瞭然です。

 

     足場組立・機械セット状況

これは、足場の組立状況・機械セット状況です。

 

     表(粉塵)

次に環境対策として削孔時に排出される粉塵について述べます。従来工法は水掘りの為粉塵は出ません。ただし、泥水の産廃処理が必要となります。しかし、無水掘工法は超高圧エアーを用いる為粉塵が発生していましたが、

 

     CMPカンプリート工法

それを口元で集塵して

自動搬送して集めることに成功しました。これによって、国道沿いの現場や民家の裏の現場でも問題なく施工することが出来るようになりました。

 

     検討範囲(削孔長・削孔径)

続いて、無水掘工法の検討範囲と優位性ですが

削孔径はΦ66mm〜127mmで土質によってはΦ136mmまで可能です。

削孔長は20mまでとなっていますが、土質によっては30mまで可能です。

 

     検討範囲(適応土質)

次に適応土質ですが、

NETISにある様に山岳土木限定となります。

ただし、。

ケーシングを使用して無水掘工法で施工する工法を二重管無水掘工法と呼びます。

 

 設計段階においての検討

 

     検討結果による優位性

次に優位性ですが、NETISより

品質の確保はもちろん

工事コストは34%縮減となり

工期は32%の短縮となります。

 

     活用事例1(第1期)

次に平成15年度の島根県における活用事例を挙げます。

1つ目は浜田土木建築事務所の浜田美都線田野原工区新世紀道路(改良)第1期工事です。

この現場では、削孔費は25,292円高くなりましたが、

足場費が673,480円と 73.86%も大幅に縮減され、

トータルでは648,188円と26.01%の縮減となりました。

 

     活用事例2(第2期)

2つ目に先ほどとほぼ同時に発注された隣りの工区の第2期工事について発表します。

こちらでは削孔費も68,953円とわずかながら縮減され

足場では1,683,104円で73.85%と大幅に縮減され

トータルでは1,752,057円と27.59%の縮減となりました。

 

     施工単価比較

次に施工単価の比較です。条件は削孔長10m、削孔径Φ90mm、2.5mピッチで1割の勾配で、平成16年度公共工事労務単価の島根県単価を使用して軽油費は80円としています。

その場合の土質別の足場費を含む削孔単価比較です。礫質土・玉石混じり土は縮減率は小さいですが

粘性土・砂質土、軟岩、硬岩は大きな縮減となります。

 

     パイロット事業実績・予定

次に無水掘工法のパイロット事業の実績と予定を挙げます。実績と致しましては、平成13年度のNSLノンストップレーン工法で国交省の報道発表にもなった山口河川国道事務所の国道2号勝谷防災工事や 平成15年度の和歌山河川国道事務所の42号河瀬(鹿ヶ瀬)擁壁補強工事があります。これは、建設技術展2004近畿において「活用技術討論会」にて国交省より発表されます。またパイロット事業として発注されていて進行中の工事が福井河川国道事務所・紀南河川国道事務所・甲府河川国道事務所で各一現場ずつあります。また、現在無水掘工法の施工検討をさせていただいている工事が近畿地方整備局で(本工法が不適当と報告させていただいた2現場を含め)10現場、中部地方整備局で6現場、中国地方整備局で2現場、九州地方整備局で5現場、関東地方整備局で5現場あります。

○ トラブル例 

     福井の現場     発注後、元請は検討しない→      トラブル

     山口の現場                  だから設計時、検討が必要

           

・品質確保

・コスト縮減

結果はHPにて発表を考えています。

 

     まとめ                          

無水掘工法の活用効果として品質の確保安全性の向上総合的コストの縮減が挙げられます。品質の確保はパウダーコア採取による設置地盤の確認や被圧地下水の動向把握とそれに即対策することです。 安全性の向上は ワンマンリモートコントロールによる合図ミスによる事故防止や削孔水不使用による二次災害防止が挙げられます。総合的コスト縮減はNSLノンストップレーン工法の社会的コスト低減と緑の斜面工法のライフサイクルコスト低減、また足場幅減少による工事コストの縮減が達成されています。また、今後の課題として限界圧密削孔長を延ばすことや、自由長部の孔壁作成時間を短縮する事が挙げられます。これらの課題を達成する事によって さらに より良く・より安く・より多く 土砂災害を未然に防ぎ、国民の生命・財産を守り安心して暮らせる町づくりを目指していきたいと思います。